2012-04-16

地域医療研修の意味


研修委員長 田村幸大

 現在の臨床研修制度では地域医療研修が必修となっており、当院の2年次研修医は新潟県の山北徳洲会病院に2ヶ月間派遣されます。そのトップバッターとして派遣されているのが藤原先生で、4月14日から15日かけて様子を見に行ってきました。

 行ってみると最寄りの庄内空港から約1時間かかりました。基幹病院がある山形県鶴岡市、新潟県村上市、いずれの地域からも40キロ離れており、高次医療機関へのアクセスは恵まれていない環境でした。病院の目の前には日本海が拡がり、綺麗に水平線を見ることが出来ました。

山北徳洲会病院

 藤原先生は10人ほどの患者さんを受け持っており、敗血症で重症の方、肝硬変の方の血糖コントロールなど何人かの患者さんについて相談も受けてきました。元気に頑張ってくれていました。

藤原先生

 さて、地域医療研修で学べることは何があるでしょうか。
 たくさんありますが、思いつく範囲で挙げてみます。

1.    様々な制約がある中での診療を経験すること
 当院では採血もレントゲンも当たり前のように24時間施行可能です。しかし、地域医療研修で派遣される病院によってはオンコール体制の病院もあります。検査がオンコール体制となると、それまで何となくオーダーしていた検査も「今、本当にやらないといけないのか」「この検査結果がわかったら診断に役立つのか」などいろいろと考えることになります。
 初期研修が始まって1年が経過し診療の流れに慣れてきてはいますが、検査や治療をオーダーする際に一歩立ち止まってよく考える機会になります。

2.    紹介する側の気持ちを体験すること
 普段、他院から紹介を受けることが多い環境にいると、「これくらいで紹介しなくても良いのに」という気持ちを持つことがあります。
 しかし、地域医療研修では紹介する側になる経験をします。医療資源が限られた中で重症患者を診療しなければならない苦労、なかなか受け入れ先が見つからない中で「どうぞ」と気持ちよくいってくれる医師のありがたさなど、紹介する側になって初めてわかることも少なくありません。
 紹介する側の苦しさを体験しておくと、紹介を受ける側に戻ったときに、先方の気持ちが理解できるようになります。

3.    一般の外来診療を経験すること
 1年間、救急外来でたくさんの患者さんの診療にたずさわり自信がついてきます。しかし、一般の外来診療は高血圧や糖尿病などの年単位で関わって管理しなければならない方々が相手です。健診異常の精査の方も受診されます。それまでの救急外来や病棟主体の研修とはひと味違った知識や経験が要求されます。
 薬を処方しても必ずしも指示通りに内服して頂けるわけではないこと、「明日内科の外来にかかってください」という台詞が使えないことなど、さまざまな難しさを経験します。

4.    訪問診療を経験すること
 地域医療研修に派遣された際に訪問診療を行います。患者さんが生活している場に踏み込むことになりますし、車で移動しながら派遣された地域を体感することも出来ます。疾患だけでなく家族背景や生活の様子を踏まえて診療にあたることの重要性を学ぶ機会となります。

5.    一人の医師として活躍できること
 普段研修している環境は指導医数も多く、常にフィードバックを受けながらの研修となります。研修の進捗状況によって、様々な裁量権を与えられるものの、基本的には上級医の指導の下での診療となります。
 しかし、地域医療研修の時期は、おのずと一人の医師として活躍する場面が多くなります。その過程を通じて、出来ると思っていたことが実は上級医からの助言があってようやく出来ていたのだと気付いたり、わかっているつもりだった知識が実は曖昧な理解しか出来ていなかったのだと知ることになったりと色々な刺激を受けます。当院に戻ったときに学ぶべき課題を見つける機会となります。
 同時に患者さんが良くなったときは本当に嬉しい気持ちになりますし、治療していても日に日に悪くなっていくときは苦しい思いもします。上級医という絶対的存在がすぐそばにいたときとは比べものにならないくらいの嬉しさも苦しさも感じる機会となります。
 そして、これが一番学ぶべき事なのかと思います。

 学べることを列挙してみましたが、今回、先方の堤院長から嬉しい言葉を頂きました。それは「研修医が来てくれると自分たちも刺激を受けられるし勉強にもなる」という言葉でした。
 親元の病院でやっている新しい検査や治療について研修医を通じて勉強できることが役立っているそうです。

 慣れない環境の2ヶ月間ではありますが、そこに行かなければ学べないことがあり、出会うことが出来ない人がいます。困ったときは支えてくれる人が派遣先の病院にいますし、親元の大隅鹿屋病院にもいます。
 どうか2ヶ月間、頑張って来てください。

2 件のコメント:

  1. 研修医 藤原2012年4月17日 17:07

    田村先生、お忙しい中休日に遠くの研修先まで足を運んでくださり、ありがとうございました。初めは「副院長がいらっしゃるぞ」と医局、病院をあげておびえておりました。(笑い)
    短い時間でしたが、受け持っている患者様のご相談にものっていただきまして、ありがとうございました。今受け持っている患者様は、基本的に自分一人受け持ちなので、夜布団の中でも治療法を考えたりしているほど責任がり、とてもひとつひとつのフィードバックが勉強になりました。2か月というとあっという間ですが、しっかり勉強していきたいと思います。

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  2. 研修委員長 田村幸大2012年4月17日 22:19

    藤原先生が活躍していることは堤院長の言葉からわかりました。

    初期研修の中では、寝るときまで患者さんのことを考えてしまうくらい頭を使うことも必要なのかと思います。

    医師として一皮むけて帰ってきてくれることを期待しています。

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