2010-01-19

「知っていても必要な時に使えなければ意味がありません」

2009年1月19日
「知っていても必要な時に使えなければ意味がありません」
救急部長 木村圭一

以前別の病院の救急外来で実際に体験したお話です。

30歳ぐらいの男性が意識障害があると言うことで救急来院されました。私も人の事言えませんが(^.^)、その方は超メタボでした。

糖尿病で通院中であること、血圧や脈拍数に大きな異常がなく、全身に冷汗がある事、耳朶血にて(普通に採血できなかったのです)血糖が「low」と出た事(そうでなくても意識障害の患者さんでは低血糖を疑うべきですが)より、低血糖による意識障害である事はすぐ分かりました。

低血糖の治療は簡単で、糖を投与すれば良いです。意識があれば飲ませますが、無理ならば注射をします。一緒にビタミンB1を入れた方が良いとか、そう言う事も機会があれば勉強しましょう。

医療用の糖が病院には用意されています。もちろん救急外来に必ず準備されていますから、困る事はほとんどありません。、、、、が、大変でした。

意識がない患者さんでしたので、注射を選択します。が、その人は大変太っていたため、静脈が分かりません。よって点滴ルートがとれません。名人と言われる看護師さん達がトライしても入りません。そう言う場合にはCVと言って太い血管に管を入れますが、それも太っていて難しい、、、、

じゃあ飲ませようかと言っても、意識がないので飲めません。鼻から胃まで管を入れて、胃に直接糖を入れてしまおうと言う事になりました。しかし、こちらも管が全然入りません。大変だ、、、、と言うことで噂が広まり、医師やその他スタッフが救急外来に集まってきました。私もその一人でした。

私はちょうどその数カ月前に救急救命センターに研修に行かせて頂いており、低血糖の対処を勉強したばかり(えっへん!)でしたので、答えはすぐ分かりました。

グルカゴン筋注です。皮下注射でも良いようですから、どこでもぶすっと刺せば良いので簡単です。太っていても関係ありません。

グルカゴンは血糖を上げるホルモンで、最も多い用途は心臓の悪い人に対する検査の前処置薬です。アナフィラキシーの治療にも使えます。血糖が低い人に使えば、治療になる事は誰でも分かります。

偉い先生が他に沢山いて、色々処置をしていました。代わる代わる経管栄養チューブを入れているのです。が、なかなか入らず、みんな気が立っていました。声も大きくなっていて、、、、

私は「グルカゴンを筋注したら良いと思いますが、、、、」とつぶやきました。当時はTwitterもないですし、つぶやきシローもいませんでした。

研修医の先生が「グルカゴンですか!?」と反応してくれたのですが、その他の先生には聞こえなかったのでしょう。誰も反応してくれず、私はもう一回グルカゴンと言った方が良いのか、あるいはグルカゴンじゃなかったかな、、、、と自信がなくなってきちゃいました。

結局何十回もトライした後に経管栄養チューブがやっと入り、そこからブドウ糖を投与して意識が回復し、めでたしめでたしとなりました。

私は医局に戻って再度低血糖の勉強をしました。やはりグルカゴンを使う事は治療として書かれています。今見つけられませんでしたが、最も重要なのはグルカゴンを投与する事であると書かれている本もありました。今度同じ事があったら強く主張しなければいけないなあ、、、、、なにしろ患者さんのためですから、、、と思っていたら、先ほどの研修医の先生がやって来て褒めてくれました。

「先生すごいですね。本で調べたらグルカゴンって書いてありました。あんなに医者がいたのに、正しい治療を知っていたのは先生だけでしたね!」

でも、あまり素直に喜べませんでした(+_+)。知っているだけでは何にもなりません。実際に使えなければ、、、、意見を言う事が出来るスキルも重要ですね。JATECと言う外傷の講習会では、以下のようなシナリオで、そういったスキルも重要と教えられます。

腹腔内出血でショック状態、意識がなく(これはショックのためなのですが)腹部手術をしてもらうために外科医(JATECを知らない)を呼ぶのですが、意識がないから脳外科だろう!と文句を言われます。それでも、これは腹腔内出血だから!と言わないと不合格になります。一緒に受講した田村先生は見事クリアしたのですが、私は判断が間違っていると思ってしまい、不合格になりました(+_+)。この時も同じ班のメンバーが、実際の現場では先生自身が「俺が執刀する!」と言えばいいんだから、、、と慰めてくれましたが(^.^)。

UpToDateの「Management of hypoglycemia during treatment of diabetes mellitus」と言う文献には、「For the treatment of hypoglycemia in a person with impaired consciousness and no established intravenous (IV) access, we suggest the immediate administration of glucagon, rather than waiting to establish IV access (Grade 2B). The usual dose is 0.5 to 1.0 mg given as a subcutaneous or intramuscular injection.」とありました。
日本語では「糖尿病の治療中の低血糖の対応法」と言う文献には「意識障害があり、点滴ルートがとれない患者さんに対しては、点滴が確保できるのを待つより、グルカゴンを直ちに投与する事を推奨する(グレード2B)。通常0.5?1mgを皮下、あるいは筋肉注射する。」と書かれていたと言う事になります。

また糖を舌下に投与する事も特に小児では有用との事です(こちらの文献。何と全文無料!)。
http://pediatrics.aappublications.org/cgi/content/full/116/5/e648
この研究では、対象が少ないのと、単なる水を投与しても2割程度にきいていると言うのが??ですが、水よりも糖を舌下に投与すると、血糖が上昇した患者さんが81.8%増えたと言う事で、NNTにすれば1÷0.818=1.22ですので有効です。糖を飲むのとでは、53.5%増えると言う事になり、NNTは1.88です。困った時には試みて良いでしょう。

研修医の皆さん(そして知らなかった指導医の皆さんはこっそり)覚えておきましょう。

それから研修医の皆さん、ブログ書いてや?、コメントも書いてや?。たまには有馬君の名文を読みたいとかわいい看護師さんが言っていましたがよ?(クラス未確定)。



2 件のコメント:

  1. 研修委員長 田村幸大2010年1月20日 8:58

    低血糖にグルカゴン!
    その通りですね。何で読んだのか忘れましたが、病院まで非常に時間がかかるアメリカやオーストラリアでは、低血糖になった時に備えて家族にグルカゴン筋注を指導している場合もあるとか、、、
    確かにルートキープを家族に教えるのは困難でしょうが、筋注ならエピペンみたいに誰でも施行可能でしょうね。
    個人的には意外な場面でのグルカゴン投与の例として、β遮断薬内服している方のアナフィラキシーが大切だと思います。ショックを離脱出来ないアナフィラキシーという事でコンサルトされ、グルカゴン投与にてショックを離脱した事が何度かあります。
    ところで、JATECではそんな場面がありました??
    木村先生はよく覚えていますね。

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  2. 木村 圭一2010年1月20日 17:23

    田村先生、コメントありがとうございます。
    JATECで私がシナリオで引っかかったと言う話をしたら、先生が「あれはJATECを知らない外科医と言う設定でしょうから、すぐクリアできましたよ」と言われてかなり落ち込んだので良く覚えています(^.^)。
    ベータ遮断薬のアナフィラキシー忘れないようにします!

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