2008-03-19

とある研修医の休日

2008年3月19日


とある研修医の休日


2年次研修医 有馬 喬

 

 

これは2006年4月、大隅鹿屋病院に突然やって来たとある研修医の物語である。

 

時は2008年3月。

もう目の前まで来ている春に心が踊る。

白い雲と雲の隙間を、自衛隊の戦闘機が飛行機雲を作りながら飛んでいる。

スロットル全開で昇っていくその青い空の先には一体何があるのだろうか。

答えは知っていても、そこに行けない今はただ気になる。

 

2年前の春、ひとりの癒し系研修医が鹿屋にやってきた。

彼の好きな曲はJohann PachelbelのCanon。 

そんな彼は癒し系の風貌であるが、このどこまでも続く青い空を今日の戦闘機のよ

うに昇って行こうとする強い志を持っていた。

そんな彼をこの病院はとても暖かく受け入れてくれた。

 

今日は、彼が育ってゆくその姿を、運転免許を取ったばかりの普通の人が初めてサ

ーキットを走り、レーシングドライバーに育っていくのに例えてみる。

 

右も左も分からなかった彼を、よく眠る某内科指導医は優しく微笑み、左と右を教

えてくれた。

 

右と左が分かり、とりあえず真っ直ぐ思いっきりアクセル踏んでみた彼に、カラオ

ケでやたら高く飛び跳ねる某内科部長は、ブレーキでちゃんと止まることの大切さ

を教えてくれた。

 

今は転勤されているが気のあった二人の先輩内科医は、彼にアクセルの使い方を指

導してくれた。

 

左と右が分かり、アクセル、ブレーキの使い方が分かった彼に、鬼軍曹を目指す某

救急部長は「右と左が分かって、アクセル、ブレーキも使えるのに、何で曲るべき

ところで曲らないんですか?はい。曲った後は指導医のサインをもらってください。

」と怖い顔で曲るべき場所を教えてくれた。

 

その途中、飲み会で「ちょっとこっち来てん。誰がそこ座っていいって言った?」と

飲み会での彼の席を常に指定し、「お前は俺と同じ匂いがするなあ。同い年だった

ライバルやったかも知れん。」と意味不明なことを言い放ち、言い放ったかと思い

きや、次の日病院で会っても笑顔ひとつ見せない某外科部長は格好良く曲るコーナ

リングを教えてくれた。

 

一通り車を走らせる最低限の技術を身につけた彼に、彼を越える癒し系某整形部長

は、彼がうっかり忘れていたバックの仕方を教えてくれた。

彼は前に進むしかできなかったことに1年間気付かなかったのである。

 

ちなみに「国家の品格」、また「低炭水化物ダイエット」について、通年指導して

くれたのは某副院長であった。

車に乗る者は車の知識だけではいけないと彼は気付いた。

 

車を選ぶセンスは皆無だが、常に遠くから見守っていてくれる某院長。

ひとたび笑うと八重歯が妙に可愛いのは作戦か?

 

2年目、彼は再びカラオケで飛び跳ねる某内科部長の元に帰った。

「結構俺って早いんじゃない?」と勘違いを始めた彼に、「まだ基本動作が分かった

だけ。僕なら10秒はタイムを削れる。」的なことを言って、まだまだレーシングド

ライバーとして荒削りであると教えてくれた。

 

灼熱の徳之島で毎日、朝回診で彼と喧嘩になった某総長だが、サーキットしか走っ

た事のない彼にダート(砂利の上)の走り方を指導してくれた。

内科医のいない島で、耐え抜いたのも当院の指導があってのことであると今でも彼

は確信している。

 

都会の病院で心の病気を診る某院長。

いったん車から降りて自分の脚でゆっくり歩いてみると、乗っているときは気付か

ない視点を、彼に教えてくれた。

心の病気に興味のない彼にも、興味に関らず知っておかなくてはいけないことをち

ゃんと教えてくれた。

 

同じ地域のサーキットでありながら、その性質は全く違うところで、女性の病気と

子供の病気を教えてもらった。

車に乗るのは自分だけではないと彼は学んだ。

速けりゃいいって物ではない。

女性や子供に優しい、乗り心地良さを身につけることも大事であると分かった。

しきたりの違いに戸惑いつつも、何とか彼は乗り切った。

 

そして、彼は見た目にも、中身も一回り大きくなって当院に帰って来た。

しかし、パワーが上がっても乗ってる本人が重くなっては速くは走れない。

これを「パワーウエイトレシオが悪い。」とレースでは表現する。

現在、彼は彼を越える癒し系某整形部長のもとで日々、走り込みをしている。

 

その他、ここに書かれなかった指導医、看護スタッフ、事務の方々を始めとする多

くの方に支えられ今日の彼がいる。

 

今にも緑芽吹きそうな今日。

彼に代わって、一言だけ言わせて頂く。

 

今まで、本当にありがとう。

また、次に会える時まで。

 

 

・・・さようなら。

 

 

 

 

まあ、明日も仕事なので次に会えるのは明日なのだが・・・。

おしまい。



3 件のコメント:

  1. カラオケで飛び跳ねる某内科部長2008年3月19日 23:55

    本日会議があり、来年度から内科の飲み会ではみんなで”リ○ダリ○ダ”を歌って、曲の最初から最後まで飛び跳ねる事が決まりました(勝手に決めました)。
    有馬先生、この「とある研修医君」に身軽になるよう、そして跳ぶ高さで部長を超えた時は部長の座も譲ると伝えておいて下さい。

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  2. 鬼軍曹を目指す救急部長2008年3月20日 3:22

    飛び跳ねた後は必ず指導医のサインをもらって下さい(^.^)。
    医局の飲み会では”リンダリンダ”で飛び跳ねる事になりました。

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  3. 鬼軍曹を目指す救急部長2008年3月20日 3:23

    ケアレス?ミスでした。”トレイントレイン”でした。

    返信削除

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